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2022年11月29日 Tue

「小平の古民家」進捗報告③

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現在工事中の「小平の古民家」の再生現場から進捗状況をご報告します。

この古民家は、江戸時代に小平の新田開発に尽力した郷士のご実家です。

2021年6月より設計をはじめて、2022年2月に実施設計を終え、解体工事が始まりました。

入り母屋造りの茅葺き民家の写真も残っており、当時からかなり裕福な家であったことが伺えます。

昭和になって屋根は瓦に葺きの入母屋造りに替えられ一回り大きくなりました。土間部分が増築された様子が写真と小屋裏の痕跡からもわかりました。

今回の再生は、先祖の建物に新しい用途を与え、重厚な外観となりました。住まいとは別の用途を加えて住み継ぐための大改修です。

まず入り母屋の「式台玄関」は残し、中央の部屋は「板張りの広間」とし、生け花のアトリエ兼展示室とします。畳敷の座敷は茶道のできる「茶席」として炉を切り水屋を付けます。

増築部の土間は、新しい台所と生花の水場を兼ねてオリジナルシンクと調理のできるストーブを据えます。シャワー室にもこだわり建物全体は趣味の家となります。

現場は外壁の断熱や仕上げと小屋裏の断熱材工事を終えて、室内の壁仕上げ工事に入っています。解体中は間取りの分からなかった室内も壁ができてだんだんに様子がわかるようになりました。

仕上げの土壁や漆喰壁、タイル工事はこれからですが、無地の桧の板も張り終えて「床下エアコン」の設置が終われば、完成を待つのみとなりました。

途中経過ですが、むかしの茅葺きの頃の外観と工事現場の写真をお送りします。解体中に大きな足固めの存在がわかりましたが、その補強がポイントです。

 

 

2022年11月23日 Wed

コラム「ものつくりの社会的責任」

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みなさんこんにちは、いつか古民家になるような丈夫で美しい木組みの家をつくりたいと想い続けている松井郁夫です。
このコラム欄では、日々の設計から考える家づくりのことや環境問題のことなどを綴っています。

今回は「ものつくりの社会的責任」について描きました。

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次男の至の制作したドキュメンタリー映画「私だけ聴こえる」が、いろいろな賞を頂いておりますが、商業映画と違い経済的には難しいのが現実ですが…。ドキュメンタリーはフィクションのような架空の世界と違って、現実的な社会生活がテーマになります。彼の作業は、日々の暮らしの中にある問題点や課題を掘り下げて、社会に向けてメッセージを発信していく作業ですので、スポンサーもつきにくくて自主制作に近い状態ですが、お陰様で高い評価を受けております。今回は、身内の自慢話ではなくて「ドキュメンタリー」映画つくりにも似ている、建築を含めた「ものづくり」に関わる人の社会的責任について考えました。

「ものをつくる」ということは、多くの素材とたくさんの人の手がかかります。例えば、木の家づくりには山の木を植えることから始まり、育林し、伐りだし、製材して職人がつくります。職人は、大工から始まり建具や左官、家具、設備まで入れると約28職あり、その職人の家族の生活も支えなければいけません。むかしから「家づくりは、社会の仕組そのものだ」といわれている由縁です。

また、家づくりには、その家が建つ場所の周辺環境も大きく影響します。世界中どこに行っても同じ家を建てても良いわけではありません。そういう意味では、一軒の家づくりといえども、地域特有の気候風土や民族や歴史などを俯瞰する「文化」の一翼を担っています。

なので家のつくり方や価値は、個人の好みによって決められるものではなくて、周辺環境の関係において決められると考えられます。むしろ形や構法は、地域の環境から決まっていくと考えるのが自然でしょう。

ここで、建築士の関わる家づくりの「社会的責任」を考えたいと思います。「ものつくりの社会的責任」と言い換えてもいいかもしれません。

特に木の家をつくる人は、地球資源の自然の素材である「樹木」の命を頂いて使ってつくっているわけですから、環境の持続が可能なように大切に使い、循環させる「責任」があります。「循環」は「必要条件」といってもいいかもしれません。また職人技術の「継承」も大切な課題です。長い間に培ってきた伝統の技術を絶やすことのにように、これからも使い続けることが必要です。

この「コラム」欄で以前に「建築はファッションか?」という辛口のコメントを書きましたが、今日のコラムはその続編のようなものです。モノつくりは「嗜好性」の強い一面もありますが、「家づくり」で大切なのは必要とされる場所に「社会性」を考えた上で「責任」を持ってつくるものではないかと思います。その場合、設計者に課せられた「社会的責任」は、オーナーの依頼に関わらずに、与えられた条件を包括し、職人の技能を継続しながら「地球環境」にとっても持続可能な仕組みを創り上げることだと考えます。

写真は「速水林業」のFSC認証を獲得した持続可能な豊かな森です。わたしたちは履歴のわかる「生まれも育ちもわかる木」を使って家づくりを進めています。

 

 

2022年11月15日 Tue

2023年:第20期「木組ゼミ」受講生募集

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来年で20期を迎える「木組のデザインゼミナール」のカリキュラムができました。

20年目の記念すべき「ゼミナール」ですので、「理論講座」では、超一流の豪華講師陣をお迎えしました。

岩崎駿介さんは、都市デザインから世界の難民救済をこころざし「日本ボランティアセンター」を設立した後、茨城県三郷に自邸「落日荘」(建築学会賞受賞)を自力建設されています。本ゼミでは毎回始まりの講座をお願いしています。世界的視点から見た日本建築の美しさや豊かさの指標を話していただきます。

三澤文子さんは、住宅の設計ばかりでなく「建築病理学」に基づく改修を手掛ける「住宅医」協会を立ち上げてご活躍の女性建築家です。

菱田昌平さんは、ベルギーの民家に学んだ素朴な建築の自邸に住み、本講座で学んだ「木組の家」を得意とする工務店を経営している、やんちゃな社長兼設計者です。独特の世界観をご覧ください。

横内敏人さんは、和の精神でつくる高級な住まいの設計者としてとても有名です。木の建築の本道をゆく作家として全国で活躍されています。美しい建築をご堪能ください。

泉幸甫さんは、アカデミズムとは一線を画した野性的な作風で名を成している住宅作家です。「イズミ印」のユニークな取り組みを話していただきます。

どのお話も「木組ゼミ」でしか聴けない講座ばかりです。

また「古民家再生」講座は、従来の時間の枠を拡大しました。最近は「古民家ブーム」に乗って玉石混交の講座もありますが、本講座では古民家の見学や実測を行い、古民家再生に最も適した「限界耐力計算」の取得や演習から「温熱向上」のノウハウまで、正統な再生技術を身に着けていただけます。古民家の温熱向上に最初に取り組んだ、先駆者の宮城県の設計者安井妙子さんの取り組みも必見です。

さらに「温熱講座」によって2025年の「省エネルギー法義務化」にも対応する計算演習ができるように岐阜県立森林文化アカデミーの辻充孝さんによる基礎からわかる温熱の話を聴けば、計算ソフトの無料配布もあります。

本講座の軸となるのは「木組講座」です。ロングセラー「私家版仕様書」執筆者による指導の元、課題の添削を行いながら、木の知識や架構の基本を学び、金物に頼らない伝統的な木組の家づくりを体得していただきます。

全ての講座を履修していただくことで、これまで以上のスキルが身につきますが、単発の受講も可能ですので、お問い合わせください。

みなさまのご参加を心よりお待ちして申し上げております。

ワークショップ「き」組 代表 松井郁夫・拝

2022年11月13日 Sun

コラム「快適な真壁の住まい」

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みなさんこんにちは、いつか古民家になるような丈夫で美しい木組みの家をつくりたいと想い続けている松井郁夫です。
このコラム欄では、日々の設計から考える家づくりのことや環境問題のことなどを綴っています。今回は「真壁」について書きました。

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真壁へのこだわり
 
住宅が充足している今日、住まい手はご自身の家に何を求めているのだろう。いまや丈夫な家は金物で縛れば容易に造ることが出来ますから「プレカット」の骨組みが全盛です。そこでは金物は室内に見せる事が出来ないので壁で隠すことになります。いわゆる柱や梁を見せない「大壁」工法です。
 
架構を見せないので、住まい手の興味は無垢の木や板ではなくて、利便性の高い設備に向いています。もしくは室内の飾り付けに熱心で自由度の高いインテリアデザインが好まれます。いまや「真壁」といわれる「柱梁」を見せる工法はほとんど採用されなくなってしまいました。
 
最近まで「真壁」は日本の建築の一般的な工法でした。なぜなら日本のような高温多湿の気候風土では、木材は壁の中に入れて蒸れないように露出して使うほうが腐りにくく長い時間の使用に耐えるからです。古民家が長く生きるのも全ての木が見えていたので維持管理がしやすかったからだと思われます。
ところが「真壁」は間取りの変更が難しいと考えられ、柱につながる梁や土台が自由に動かせないために設計者は振り向かなくなってしまいました。
本来、日本建築は軸組といわれる柱や梁の骨組みを表しにする「真壁」工法が主流でしたが、金物を見せずに木と木を組むには「継手・仕口」と言われる接合部の加工を丁寧につくらないと見せられません。もちろん手仕事に時間がかかるので、残念ながら今では採用する設計者や大工職人はごくわずかです。
しかしながら、わたしは「真壁」工法の「木組の家づくり」を続けていきたいと思います。柱や梁がつくるダイナミックな水平垂直の美しさは何ものにも変え難いからです。丈夫な骨組みに力が伝わる様子が室内から見えることで安全安心にもつながります。また、無垢の木は人を癒やしてくれて豊かな気持ちにしてくれると考えています。
 
写真は二本の大黒柱と梁や天井板が現しの室内です。無垢の木と漆喰の呼吸する素材を採用し、床下に温風を吹いて快適な室内をつくっています。「南長崎の家」

2022年11月11日 Fri

コラム「日本的な文化と民藝」

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みなさんこんにちは、いつか古民家になるような丈夫で美しい木組みの家をつくりたいと想い続けている松井郁夫です。
このコラム欄では、日々の設計から考える家づくりのことや環境問題のことなどを綴っています。今回は文化について書きました。

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日本的な文化

先日の韓国で起きたハロウィンの痛ましい事故を見ていると、世界的規模でその国から地域らしい習慣が消えつつあると感じています。他国の風習の影響で自国の風習や習慣が変化してしまえば、ひいては自国の独自文化の衰退につながるとも感じています。
司馬遼太郎さんの解釈に従えば「文化」とは地域の独特の風習、習慣であり他では通用しない癖のような違いだといいます。一方あらゆる地域でも通用する万国共通の事柄を「文明」というそうです。
たとえば、食生活には国の違いが顕著に現れますが、マクドナルド・ハンバーガーは各国で受け入れられて世界を席巻しました。まさに「文明」の力です。
「文化」と「文明」の違いが他国に大きな変化をもたらすことは、日本の明治維新を振り返れば明らかです。明治維新は黒船来航によって外来の文明が日本の伝統文化を分断しました。
日本は、明治維新で西欧化し、第二次世界大戦に敗戦してアメリカンナイズされました。さらに今後、省エネルギー法の改正によって北欧化する見込みです。
建物の変化は、人々の暮らしを変えますから、文明による変革によって生活は変わるでしょう。しかし、本来の日本らしさは気候風土の変化がない限り、変わらないでしょう。写真は、益子参考館の長屋門です。日本の民藝運動に尽力した濱田庄司の自宅があります。民藝運動は無名の職人たちがつくった普段使いの庶民の雑器に目を向け、まさに日本の職人文化を顕彰する活動でした。2023年3月18日と19日に益子参考館で私の講演会があります。一日目はレクチャーで、二日目に古民家の門を実測するワークショップを行います。お時間の許す方はお運びください。

わたしたちは、気候風土に根付いた日本家屋の文化が失われてしまわないように活動を続けたいと思います。

 

 

2022年11月04日 Fri

コラム「超高層ビルも古民家も柔構造」

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霞ヶ関ビルの解体が始まっています。日本で最初の超高層ビルで36階建て。設計は池田武邦、構造設計は武藤清、工事は鹿島建設1968年竣工。武藤清はこの工事を請け負うために鹿島建設社長に就任、超高層ビルに適した柔構造を採用しました。柔構造は五重の塔からヒントを得たと言われています。
1923年(大正12年)には日本建築の耐震化について「柔剛論争」が起こり。武藤清の師匠、東京帝国大学の佐野利器は「剛構造」を唱え「柔構造」論を主張した海軍省技師の真島健三郎と対峙しました。第二大戦が始まり決着を見なかったと言われていますが、佐野利器の愛弟子武藤清による霞ヶ関ビルの柔構造採用で結論は出たのだと思います。
古民家の構造設計も、柔構造の考え方を採用した「減衰計算」という力をいなす考え方「限界耐力計算」で考えるべきだと思います。
松井事務所の古民家は全て「限界耐力計算」を採用しております。「木組ゼミ」という勉強会では「古民家再生講座」で「限界耐力計算」を講習しております。

 

 

2022年11月03日 Thu

コラム「古き民の声」

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みなさんこんにちは、いつか古民家になるような丈夫で美しい木組みの家をつくりたいと想い続けている松井郁夫です。
このコラム欄では、日々の設計から考える家づくりのことや環境問題のことなどを綴っています。今回は現代古民家について書きました。

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古き民の声
僕は、もしかすると物欲が薄いのかもしれない。モノとしての物欲より、モノに宿る精神に魅力を感じる事が多い。モノに宿る声をいまに伝え、みらいにつなげたいと思う。それと同時に過去ともつながりたいと思う。つまり建物をつくったときの精神を永続したいという気持ちだろう。だから、流行りの物には興味がない。
物に欲がなく、流行に興味を感じないのは、建築にたずさわるにデザイナーとしては、欠陥であり向いてないのかも知れない。(笑)
古い城下町に育ったせいか、古びた民家の自然素材に永続性を感じる。だから古い建物の前に立つと先人たちの精神を感じ、むかしの声が聴こえてくる気がする。
名もない職人たちの声と自然の素材。それらの融合とみらいへのつながりを求めて、現代に古民家を再生したい。新しい建物も「いつか古民家になる」ようにつくりたい。それを現代古民家と呼びたい。

 

2022年10月14日 Fri

「小平の古民家」進捗報告②

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進めております「小平の古民家」再生現場に小屋裏断熱を施し、天井にルーバーをかけて美しい室内をつくります。屋根裏を二重構造にすることで断熱材の挿入を容易にします。内部足場が取れたので写真を撮りに行ってきました。

ルーバーの桧は吉野材です。桧小節の床板も納品されていました。無地に近い板でした。

薪ストーブの煙突も施工済みです。次はオリジナルキッチンの施工会社との打ち合わせです。

外部出窓の庇は古式に則って「七五三庇」としました。手前に木格子がつく予定です。コロナの影響で進行が遅れていますが、丁寧な仕事の完成が楽しみです。

2022年10月12日 Wed

コラム「都市設計=アーバンデザインにあこがれて」

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みなさんこんにちは、いつか古民家になるような丈夫で美しい木組みの家をつくりたいと想い続けている松井郁夫です。
このコラム欄では、日々の設計から考える家づくりのことや環境問題のことなどを綴っています。
今日は「都市設計=アーバンデザイン」について書きました。
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人は集まって暮らすことで、豊かな社会をつくるのだと思います。都市はまさに、多くの人々の集住の現れです。しかし、人口が集中することで、さまざまな問題も起こります。
そこで「都市計画」が必要になります。快適な空間をつくるために道路や上下水道のインフラストラクチャーの整備や人口が密集して不具合が起きないように土地の用途を決めて建物に制限をかけたり、緑地や公園を配置したりすることです。
さらに、それらの多様性を維持しつつ調和を整えるために、デザインする「都市設計」が必須となるのです。
そのための「ルール」づくりを「アーバンデザイン」と呼び美しい街をつくる仕組みとなります。
日本の各地に残る「伝統的建造物群保存地区」は昔からまちづくりの決まり事がありました。そこには大工職人たちの口伝による「美しさ」の基準もあります。「相場崩しはするな」という近隣関係の調和を図る自主的な規制もありました。
ところが日本では、敗戦後に「建築基準法」が施行されましたが、そこには「美しさの基準」がなかったために周辺の景観に無関係な建物が建ち、各地で現在のような混乱した町並みを生んだのだと思います。
いまこそ「都市設計=アーバンデザイン」による秩序と調和が必要なのではないでしょうか?
かつて岩崎駿介さんが「横浜都市デザイン室」で実施した美しい街のように…。

2022年10月07日 Fri

コラム「都市に森をつくろう!」

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みなさんこんにちは、いつか古民家になるような丈夫で美しい木組みの家をつくりたいと想い続けている松井郁夫です。

このコラム欄では、日々の設計から考える家づくりのことや環境問題のことなどを綴っています。

今日は「都市の緑化」について書きました。

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すでに日本の人口は減少し始めています。

内閣府の統計によれば2021年10月に1億2550万2000人であった人口は、11年連続の減少となり2045年には1億人を割ると言われています。
そのため人口減に伴う都市部の「空き家」や「空き地」が増えています。

「空き家」の利活用は、耐震補強により耐用年数を伸ばし再び住宅や施設として使うことが考えられます。
一方「空き地」の利活用は、公共が買い上げて公園や農園に利用することが考えられます。

最近読んでいる本で「まちを変える 都市型農園」新保奈穂美著 学芸出版社刊があります。
身近なまちなかに増えた「空き家」や「空き地」を見て読み始めました。

この本には、世界中の都市の隙間を利活用するゲリラ的なガーデンの事例が出ています。日本の事例もあり住民の緑地に対する思いが伝わってきます。

現在世間を騒がせている「神宮外苑」に再開発に伴う樹木の伐採問題は、陳情運動に友人が関わっていることもあり、都市の緑について更に深く考えるようになりました。

人間には緑が必要です。人工的な空間で豊かさを感じることには限界があります。前々から都市には緑が足りないと思っていて、殺伐としたコンクリートジャングルに緑あふれる森をつくれないかと漠然と考えていました。

そこで増え続ける「空き地」を集約して森に出来ないか、と考えるようになったのです。
今では開発行為にばかり名前の出てくる「都市計画」には、本来都市の人間を豊かにする夢があったはずです。都市の空き地を森に変える仕組みも都市計画によって可能ではないかと考えます。

少なくとも「アーバンデザイン」が横浜で始まった50年前には緑と都市は共存していました。
街なかを15分も歩けば森があるという都市生活って素敵だと思いませんか。

2022年10月06日 Thu

コラム「建築はファッションか?」

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みなさんこんにちは、いつか古民家になるような丈夫で美しい木組みの家をつくりたいと想い続けている松井郁夫です。

このコラム欄では、日々の設計から考える家づくりのことや、環境問題のことなど綴っています。

今日は辛口のコラムです。建築の「不易と流行」について書きました。

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最近になって、インスタグラムをはじめました。

仕事の関係で建築の写真に興味があるので毎日覗いたり事務所の仕事をアップしています。大変綺麗な多くの事例写真を見ることが出来て、楽しい時間を過ごしています。

みなさん美しいショットをアップされていて、写真の撮り方もうまくてきれいで、とても勉強になります。

オーナーの方もよくご覧になっているようです。主にインテリアの写真が美しくて魅力的なリビング・ダイニングやキッチンをご覧になっています。オーナーご自身が気に入られたショットを保存して見せていただくことが増えました。

でも困ったことも増えました。写真のようにしてくださいと頼まれるのですが、条件が違うと難しいのです。また、オーナーの集めたシーンには流行があるので、それらをまとめて素晴らしい家ができればいいのですが…シーンは時間とともに古くなります。

日頃から、不易で変わらない住まいを木組みでつくり、古民家のように長い時間を生きる住まいは出来ないかと考えているので、「ファッション」性の高い流行りのショットの集積だけでは、すぐに古びてしまうと思います。

住まいは、敷地の場所性や住まい手のご要望に左右され、内も外も含めた環境的な視点と時間を超える普遍性が必要なので、様々な条件を俯瞰した統括的な回答を求められます。それには沢山の引き出しが必要です。中でも「美しさ」は大切な要素で、美しいということは機能も満足させることが出来るものとして「美はすべてを統括する」と言われています。

さらに、俳人の松尾芭蕉の言うように、ひとつの句の中に「不易と流行」を取り込まなければ良い句はできないように、建築にも変わらないものと変わりゆくものの両方が必要です。良い建築は、その両方を実現して可視化することが大切だと思います。

住まいは、まず丈夫な不易(変わらない)となる骨組み(スケルトン)があって、室内(インテリア)に流行り(変わりゆくもの)の要素を入れながら「ファッショナブル」性を取り入れながら創りたいと思います。

 

「井之頭の家」キッチン

「宇都宮の古民家」キッチン・リビング・ダイニング

 

 

 

 

2022年10月03日 Mon

コラム「立ち振舞を美しくする」

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みなさんこんにちは、いつか古民家になるような丈夫で美しい木組みの家をつくりたいと想い続けている松井郁夫です。

このコラム欄では、日々の設計から考える家づくりのことや、身の回りの環境のことなどを綴っています。

今回は芸大時代の恩師・小池岩太郎の名言を思い出しながら書いてみました。

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目まぐるしく変わる現代社会の情勢。わたしたちは、生活者であり設計者として今の時代をどう捉えて、どう生きていくのがいいのだろう?

さまざまな問題が地球規模で起きている現在、住まいの設計にかかわる者としては、常日頃から家族が幸せで豊かに暮らすことのできる家をつくることが第一義だと考えている。家族はコミュニテイから見れば最小限の単位だが、全ては家族からはじまると考えれば「住まいは幸せな家族のための器」なのだ。

そのためにできることは、すべて実践したい。

まず、地震や台風などの自然災害から命を守る丈夫で安全な住まい。

それには「古民家」のように長い時間を生きる家がいい。ただし長い時間を生きるには「美しい家」でなければならない。

さらに温暖化が進む地球の気候に対してできることは何か?

それは建物の断熱性能を上げて省エネルギーを図り、地球環境に負荷をかけない家をつくることではないか。つまり温めすぎず冷やしすぎない「暑さ寒さを取り除く」適正な体感温度の実現ではないか。

木は植えて育てれば無限の素材である。光合成を繰り返し、空気中に酸素を供給する優れた素材である。木と木は組んで使えば、解体や移築も可能で資源のサイクルが長寿命の家をつくる。

「美しい家」とは素材や形が良い家であり、「住む人の立ち振舞を美しくする」家だと思う。

素材は「自然素材」で、プロポーションの良い家がいい。「自然素材」は、無垢の木や土で、快適な室内とつくり、人の心を豊かにしてくれる。

プロポーションとは「美しさ」を創り出すデザインの問題であるが、「美しさ」とは、色や形だけでなく、「住む人の立ち振舞にも現れる」ということだ。

「デザインとは、立ち振舞を美しくすること」は、東京芸術大学の

恩師・小池岩太郎(GKデザイン創始者)の言葉。GKはグループ小池のこと。

 

2022年09月30日 Fri

コラム「石場建ての真実」

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伝統構法を標榜する大工職人には、建物を石の上に据える「石場建て」が人気です。

むかしの民家や社寺は、柱が石の上に置いてあるだけで、固定されていません。また床下の大引は存在しなくて大きな「足固め」が柱を結んで床を支えていました。束も束石もない。一間おきか二間おきの柱の下に礎石が据えてあるだけです。

金物もコンクリートもない頃は、「石場建て」は当然のことであったかもしれませんが、さらに他にも理由があったと思われます。石は丸い形状で、雨も溜まらないのですが滑ります。大工は石の形に合わせてカーブをなぞらえて、吸い付くように据えました。

木と石の接点の形をなぞり据え付けることを「光付け」といいます。一つ一つの石の形が違うので「光付け」には時間がかかったと思います。これには地震に対する備えもあって、大きな力が入ると滑り落ちるので、地震力がそれ以上入力しません。

つまり免震効果があるのです。ある程度の地震には石の上で揺れて力を逃し、建物が耐えきれないほどの大きな力がかったときに滑ればいいので、その塩梅が難しい。それには建物の重量や形状、地震の波の大きさなどの前提条件が複雑です。力学計算では摩擦係数0.4以上で滑ると言われています。

しかし平易に考えれば、固定していない机や椅子は、地震で滑っても壊れることはないのです。建物の下敷きにでもならない限り破壊には至らないでしょう。だから、足元フリーは理にかなっています。

そもそも日本の古民家は、強い力に抵抗する「強度設計」ではなく、力をいなす「減衰設計」であり、石の上を滑るのは究極の「免震」だと思います。また、超高層の建物は揺れて力を逃がす「減衰」が耐震・耐風対策であり、「剛構造」より「柔構造」です。

超高層ビルも「減衰設計」が前提であり、未曾有の自然災害に対抗する「強度設計」には限界があると考えられます。

古民家は「貫」などの「木のめり込み」と「継手・仕口」の加工面の「摩擦」により、揺れながら力を逃がす、つまり地震エネルギーを吸収して力を減らす「減衰」系の「柔構造」であり「石場建て」は、まさに日本のような地震や台風の常習国の知恵といえるのです。

柔構造の高層ビルに採用された設計法「限界耐力計算」は、「阪神大震災」の被害を憂いた大阪の構造家・樫原健一氏によって国土交通省に働きかけ木造住宅に転用され、ようやく2000年に告示化されました。

2008年から2011年にEディフェンスで公開された、国土交通省の「伝統的構法の設計法ならびに性能検証の実大実験」では、足元を固定しない建物の損害が殆どなかったことが実証されています。

ただしその後の建築基準法の改定では、足元フリーで縦揺れの拘束はなくなりましたが、柱の根元にステンレスのダボを入れる条件があるため横揺れに対して応力を受けてしまい、建物に損害を与えるおそれがあります。なので充分な足元フリーとは言えません。

筆者は当初から、国土交通省の伝統的木造家屋の委員会に参加し実験に立ち会い、試験体の作図もお手伝いしましたが、実験で得られた多くの知見が充分に建築基準法に反映されていないことを残念に思います。さらなる実大実験が待たれますが、今のところその動向はありません。

本コラムの詳しい記述は拙著「古民家への道」ウエルパイン書店 50頁「石場置きは免震か」187頁「新たな解析法」193頁コラム「柔剛論争」を参照にしてください。

2022年09月17日 Sat

「小平の古民家」進捗報告①

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進めております「小平の古民家」外部足場が取れました。

木製の框ガラス窓を設置しています。

室内の足場は10月の中頃に取れる予定です。

ルーバーの様子をチラ見せ!

室内の変わりようが楽しみです。ご期待ください。

2022年09月16日 Fri

「住む。」にワークショップ「き」組のメンバーを載せていただきました

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「住む。」2022年秋号にワークショップ「き」組のメンバーを掲載していただきました。

ワークショップ「き」組は、住まい手のために山には植林費用を還し、職人には腕を振るってもらい、設計者には美しいデザインを実践してもらう協働の仕組みです。

2003年にグッドデザイン賞をいただきました。来年で20周年!これからもよろしくお願いします。

 

2022年08月29日 Mon

コラム「異常気象に想う植林の大切さ」

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最近の世界中の異常気象をどう考えたらいいのだろう。

日本ではこの夏は、毎日35度を超える猛暑で、雨が降れば豪雨となって床上浸水の被害が出る。

世界では、猛暑と豪雨と干ばつが続き、南極の氷が溶けだしている。

先日見たTVでは海水の酸性化による甲殻生物の殻の融解まで起きている。

海中の二酸化炭素料が増えてプランクトンが激減している。

このままでは人の寿命より地球の寿命が早く来てしまいそうだ。

もう手遅れかもしれないが、わたしたちにいまできることはなんだろうと考える。

まずは、省エネルギーを図って二酸化炭素の排出量を抑制すること。

そのためには、建築の建設にかかわるエネルギー消費を抑えること。

断熱材を充分に補填した、熱を入れずに逃さない「省エネルギー」の家をたてること。夏涼しく冬暖かい家を建てること。

いや、むしろ住まいから「寒さ暑さを取り除く」だけでいい。

また、光合成によって酸素を供給する樹木を植えること。

木材の案的供給は植林から始めなければいけないが、木の値段は植林費用が出る値段を適正価格としなければならない。

現状の木材は伐採すると植林費用がでないほど安いことが問題。

木は切っても植えれば「無限の資材」であるが、植林費用の確保は急務である。

コロナ禍で出来なかったが、ワークショップ「き」組の山と職人と住まい手を結ぶ仲間で毎年続けいていた植林ツアーを再開したい。

2022年08月27日 Sat

「小平の古民家再生」

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進めております「小平の古民家再生」床下や外壁の施工が進み、いよいよ内部に入りました。

内部は断熱材の施工を兼ねて、天井を二重にします。

屋根の下にさらにルーバーで屋根を造り「入れ子」の構造になります。

このルーバーが完成したとき、小屋裏に空間の広がりとリズムが生まれます。

2022年08月25日 Thu

「安達屋豆腐店」完成

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安達屋豆腐店

木組の店舗併用住宅

5年ほど前から当事務所の見学会に来られていた熱心なお豆腐屋さんです。

当事務所のこだわりの「木組」が大好きで依頼を受けました。

お豆腐もこだわりの「自然薯豆腐」を創っています。

何度も打ち合わせを重ねて、依頼を受けてから3年かけました。

1階が豆腐店で、2階が住宅です。

私鉄の駅に近い商店街で、顧客も多く、

内覧会には大勢のお得意さもお見えになりました。

こだわりの木組の家でつくるこだわりのお豆腐です。

奥様の制作されたYoutubeもありますのでご覧ください。

どうぞ末永くご愛顧ください。

所在 東京都世田谷区
構造規模 木造2階建
敷地面積

70.06㎡(21.19坪)

建築面積 52.65㎡(19.92坪)
延床面積 103.54㎡(31.32坪)
設計監理 松井郁夫建築設計事務所
施工 キューブワン・ハウジング
竣工 2021年9月
建ぺい率 75.19%
容積率 140.99%
地域地区 近隣商業地域
防火地域 準防火地域
構造材 吉野杉・桧
床板 吉野杉 厚15mm
外壁仕上 土壁風藁入りモルタル+新フラット16
断熱材 セルロースファイバー75mm
内壁仕上 漆喰塗り・ラスボード下地
開口部 樹脂サッシ(ペアガラス)

2022年08月24日 Wed

ひさびさの「お住い見学会」のお誘い

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コロナ禍が続いていますが、ひさびさの「お住い見学会」のお知らせです。

場所は吉祥寺の静かな住宅街で若いご夫婦と愛犬のお住まいです。

「木漏れ日のある家」というテーマを頂き、隣家の日陰になることを避けて、南を開けた建物に「木漏れ日ルーバー」を設置しました。幅も間隔も違うランダムな木製格子です。3Dによる隣家からの日陰検討も行いました。

丈夫な木組の架構はもちろん、エアコン一台で温熱をコントロールして、快適な室内環境を実現しております。

構造材や仕上げに国産材の無垢の木と自然素材の漆喰をふんだんに使った、落ち着いた佇まいを是非ご体験ください。

予約制ですので、当事務所までメールok@matsui-ikuo.jpもしくはFAX03-5996-16-370にてお申し込みください。吉祥寺駅からの地図をお送りいたします。

みなさまのご参加をお待ち申し上げております。

 

 

2022年08月14日 Sun

【再掲】仕事集の紹介

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36年間に松井郁夫が手掛けさせていただいた建物の「写真集」のご紹介です。
「作品集」と呼ばず「仕事集」と呼んでいます。多くの建主さんや職人たちとの協働作業から生まれた建物ですから…。
カラー写真と実際に使った図面とコラムによる解説付きです。
どうぞお手にとってご覧ください。
Amazonで購入できます。

松井郁夫仕事集1
美しい木組の家「いつか古民家になる」
松井郁夫仕事集2
古民家のみらい「成熟した社会を目指して」
オールカラー200頁~240頁¥5000
ウエルパイン書店発行

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