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2022年11月23日 Wed

コラム「ものつくりの社会的責任」

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みなさんこんにちは、いつか古民家になるような丈夫で美しい木組みの家をつくりたいと想い続けている松井郁夫です。
このコラム欄では、日々の設計から考える家づくりのことや環境問題のことなどを綴っています。

今回は「ものつくりの社会的責任」について描きました。

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次男の至の制作したドキュメンタリー映画「私だけ聴こえる」が、いろいろな賞を頂いておりますが、商業映画と違い経済的には難しいのが現実ですが…。ドキュメンタリーはフィクションのような架空の世界と違って、現実的な社会生活がテーマになります。彼の作業は、日々の暮らしの中にある問題点や課題を掘り下げて、社会に向けてメッセージを発信していく作業ですので、スポンサーもつきにくくて自主制作に近い状態ですが、お陰様で高い評価を受けております。今回は、身内の自慢話ではなくて「ドキュメンタリー」映画つくりにも似ている、建築を含めた「ものづくり」に関わる人の社会的責任について考えました。

「ものをつくる」ということは、多くの素材とたくさんの人の手がかかります。例えば、木の家づくりには山の木を植えることから始まり、育林し、伐りだし、製材して職人がつくります。職人は、大工から始まり建具や左官、家具、設備まで入れると約28職あり、その職人の家族の生活も支えなければいけません。むかしから「家づくりは、社会の仕組そのものだ」といわれている由縁です。

また、家づくりには、その家が建つ場所の周辺環境も大きく影響します。世界中どこに行っても同じ家を建てても良いわけではありません。そういう意味では、一軒の家づくりといえども、地域特有の気候風土や民族や歴史などを俯瞰する「文化」の一翼を担っています。

なので家のつくり方や価値は、個人の好みによって決められるものではなくて、周辺環境の関係において決められると考えられます。むしろ形や構法は、地域の環境から決まっていくと考えるのが自然でしょう。

ここで、建築士の関わる家づくりの「社会的責任」を考えたいと思います。「ものつくりの社会的責任」と言い換えてもいいかもしれません。

特に木の家をつくる人は、地球資源の自然の素材である「樹木」の命を頂いて使ってつくっているわけですから、環境の持続が可能なように大切に使い、循環させる「責任」があります。「循環」は「必要条件」といってもいいかもしれません。また職人技術の「継承」も大切な課題です。長い間に培ってきた伝統の技術を絶やすことのにように、これからも使い続けることが必要です。

この「コラム」欄で以前に「建築はファッションか?」という辛口のコメントを書きましたが、今日のコラムはその続編のようなものです。モノつくりは「嗜好性」の強い一面もありますが、「家づくり」で大切なのは必要とされる場所に「社会性」を考えた上で「責任」を持ってつくるものではないかと思います。その場合、設計者に課せられた「社会的責任」は、オーナーの依頼に関わらずに、与えられた条件を包括し、職人の技能を継続しながら「地球環境」にとっても持続可能な仕組みを創り上げることだと考えます。

写真は「速水林業」のFSC認証を獲得した持続可能な豊かな森です。わたしたちは履歴のわかる「生まれも育ちもわかる木」を使って家づくりを進めています。