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2023年02月16日 Thu

「小平の古民家再生」進捗報告⑦

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「小平の古民家再生」は今月の完成を目指して追い込みに入っております。

間接照明のあかるさの調整や家紋入りの本襖の制作を入念にやっております。

生花の水切り作業をする台所やお茶室になる座敷には土塗りの炉壇も入り畳と炉縁を据えるだけになっております。水屋も竹釘の位置を決めました。

台所や洗面トイレは奥様こだわりの黒を基調にしたインテリアになっています。古民家の中にモダンを感じる仕上がりとなりました。

一般公開の内覧会をさせていただくことになっておりますので、3月にはいって日程が決まりましたらご案内致します。

耐震補強と温熱向上を施した「懐かしい古民家のみらい」をご堪能ください。

梅の花が咲き始めました。

本塗りの炉壇が入りました。

照明設計をしてくれたヤマギワの遠藤くん。8通りのシーン設定ができるスポットライトの調整中。生花を照らします。

黒を基調にした台所と洗面所。

床は吉野中央木材から直送された「吉野桧」です。

 

2023年02月15日 Wed

コラム「トルコ大震災」の被害について

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6日トルコ南部で発生した大地震はマグネチュード7.8に達し発生から一週間経ち、亡くなった人は3万9000人を超えています。地震の震度は阪神大震災の22倍と聞いて驚きました。

現地では必死の救出作業が続けられて、尊い命が救われています。凍てつく空の下に投げ出された人たちには一刻も早い救援が必要です。そんな事態の中、倒壊した建物のほとんどは違反建築であったという衝撃のニュースが入ってきました。

トルコでは日本と同じ耐震基準があるものの、安全基準を満たさなくても一定の金額を払うと使用を認められる制度があると来てびっくりしました。

「恩赦」と言われる制度が存在すること自体が犯罪ではないかと思います。エルドアン大統領は違反者を逮捕して回っているそうですが、そんなことより救出や避難所の建設が先だと思います。

遠いトルコの国で起きた地震ですが、日本も他人事ではありません。28年前の阪神大震災以降、能登、熊本、東日本の地震は予想を超える大きな災害を生みました。

地震に備えるためには、まず建物の耐震性を高めることがわたしたち建築関係者には求められます。

阪神大震災を教訓に、実務者のために『木造住宅【私家版】仕様書』を執筆し、「地震に強い家づくり」のための「木組の家づくり」を進めてきた松井事務所ですが、さらに気を引き締めて実務の設計に当たりたいと思います。

「倒壊しにくい貼り強い木組」は地震国日本で生まれた命を守る仕組みです。

トルコ・ハタイの被災地の様子(2023年2月8日撮影)。(c)DHA (Demiroren News Agency) / AFP

 

 

2023年02月12日 Sun

コラム「農村都市構想」

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わたしたちの暮らしは「空間」によって決まると思います。

豊かな空間に暮らすかどうかによって、幸福度も変わる気がします。

今回は都市空間の「農」化について書きました。

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19世紀の産業革命後のイギリスでは、都市化による生活空間の荒廃を嘆いたハワードによって「田園都市構想」が提唱されたことがあります。

日本でも住宅公団による郊外の住宅団地計画は、田園都市構想の影響を受けていたといえます。

最近では、気候変動の危機的状況から都市生活の価値観も変わって「農村都市構想」ということが言われ、都市に「農」を持ち込む「都市型農園」が提唱されています。

ギャラリー「間」では「How is Life?」という展示会が開催されています。

サブタイトルはー地球と生きるためのデザインーとあります。

この展示では、現在の暮らしによって、これ以上環境破壊を進めないために負荷を低減する行動に切り替え、「成長なき繁栄」も検討すべきだと訴えています。

建築的営為が人々の暮らしに奉仕するならば、生産ー消費ー廃棄の反復から抜け出さなくてはいけないということです。

それには建物を構法から素材、暮らしまでを自然のままを受け入れることを提案しています。建築展というより民俗学的な展示ですが、空間の視点を超えた共感があります。

2022年10月21日から2023年3月19日までの長い展示です。お時間のある方は是非!

https://jp.toto.com/gallerma/

「まちを変える都市型農村」という本もお薦めです。

2023年02月11日 Sat

コラム:参加のデザイン「ワークショップ」②

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快適で住みよい空間をつくることは住まい手の「しあわせ」につながると思います。

意見の違いを乗り越えて「しあわせ」の目標に向かってみんなで作業する場を「ワークショップ」といいます。

一時期、日本全国を席巻した「住民参加の手法」です。いまでも多くの自治体や設計者が採用しています。

松井事務所では、「まちづくり」ばかりでなく「木組の家づくり」の仲間との「協働の場」として「ワークショップき組」を実践しています。

今回は、住まい手と職人と設計者の協働の場「ワークショップき組」について解説します。

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松井事務所が、「ワークショップ」で家づくりを進めようと考えたのは20年前になります。

1995年の阪神大震災のあと、ものづくりの職人の力は大きいと感じていたので、職人との協働は実践していましたが、2000年に「近くの山の木で家をつくる運動」に参加して、職人の手仕事と山の保全つながりが一気に見えたのです。

荒れていた日本の山を救い、伝統的な日本の職人技を駆使して、住まい手の「しあわせの家づくり」を実現したいと思ったのです。

当時、海外に頼っていた木材をやめて、近くの山の木を使うことで、その願いは解決すると確信したのが「ワークショップき組」の結成につながりました。

長い時間をかけて育てた山の木を大切に使い、腕に自信のある大工に技術を振るってもらう。

伐った木は、植林をして山を守り、次の世代が建て替えるまで長寿命で丈夫な家を一般の人でも手に入れられる価格でつくる「山と職人と住まい手をつなぐ」仕組みです。

山の木は「トレーサビリティ」という生産履歴がついた「生まれも育ちもわかる木」です。

職人は「木組」という日本古来の伝統的な大工技術を実践する人たちです。

「プレカット」という工場加工の家が大勢を占める木造住宅業界の中、「手仕事」をいとわない家づくりの集団をつくる必要があったのです。

「手仕事」の職人と組める設計者の育成もはじめました。「木を知り」「職人言葉のわかる」設計者をつくることです。

それが今年で20期を迎える「木組のデザインゼミナール」です。20年間で240人の木組のわかる受講生を世に送ってきました。

いまでは「木組ゼミ」を修了した全国のメンバーが「ワークショップき組」を構成しています。

「第20期木組のデザインゼミナール」は4月16日から12月16日まで、「古民家講座」「木組講座」「理念講座」「温熱講座」をZoomで行います。20年を記念して豪華な講師陣を揃えました。木造住宅の設計のスキルアップを目差している方はぜひご参加ください。

最後は広告になってしまいました…。

広告「住む」掲載

 

2023年02月08日 Wed

コラム:参加のデザイン「ワークショップ」①

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快適で住みよい空間をつくることは、住まい手の「しあわせ」をつくることにつながると考えています。

住まいづくりは家族のしあわせをつくることですし、まちづくりは心地よい地域をつくることだと思います。

わたしたちの目指す「しあわせ」な空間づくりも多くの人の参加によってデザインできると考えています。

そのためには「オープンマインド」が有効だと思います。本日は参加のデザイン「ワークショップ」について書きました。

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「ワークショップ」という「合意形成の技術」をご存知でしょうか?

ひと頃、まちづくりの現場でよく使われた「手法」が「住民参加のワークショップ」です。

意見が違う様々な人たちの想いをまとめるためには、お互いの意見を集約するための工夫が必要です。

肌の色も、目の色も習慣も違う別々の人種を乗り越えて「合意形成」をはかるためにアメリカで生まれた技術だといいます。

出し合った意見を「カード」に書いて「KJ法」で整理したり、相手の立場に立って意見を述べる「ディベート」を通して違いを知ったり、考えを共有したりして様々なゲームを駆使して問題の解決の方向性を探ります。

この手法を使えば、現在の社会が抱えている大きな問題も、果敢に取り組むことが出来ます。

地球環境の問題も、近隣の問題も、人間関係も解決できるかもしれません。

それには心を開いて開放的で隠し事のない「オープンマインド」でいなければなりません。

すべての気持ちを開放して、心置きなく話せる環境を作ることが大切です。そんな場をつくるための講習や本もあります。

実はいま各地で起きて問題になっている「再開発」も最初からこの「ワークショップ」を取り入れて、意見の集約を図れば、意見の衝突や困難も避けられたのではないかと思うのです。

  

 

 

 

2023年02月06日 Mon

古民家講演と実測のお知らせ in益子・濱田庄司記念参考館

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古民家は生きています。

その丈夫で長寿命の架構と自然素材でつくられた豊かな空間を追体験できる企画です。

2日間の連続講座ですが、古民家に興味のある方は奮ってご参加ください。専門家はもちろん、一般の方も大歓迎します!

貴重な財産である古民家を活かして「みらい」につなぎましょう!

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古民家の再生スライドトークと長屋門の実測ワークショップのお知らせです。

3月18日(土)と19日(日)に日本の民家の成り立ちから再生までの講演会と実測調査の実習を行います。

場所は益子の「濱田庄司記念益子参考館」です。クラウドファンデイングで長屋門の茅屋根の吹き替えを達成できた記念の企画です。

以前にもお知らせいたしましたが、詳しいチラシが届きましたので、再度お知らせいたします。

18日は午後13時半から16時まで「日本の民家の歴史 縄文から現代まで」のスライドトーク

19日は午前10時から16時まで「古民家を読むー茅葺き長屋門」の実測ワークショップで実際に長屋門を測ります。

日本の家の原点は古民家にあると思います。ここで体験したことは、かならずこれからの新しい設計や暮らしに活かされると思います。

 

 

 

 

2023年02月05日 Sun

「小平の古民家再生」進捗報告⑥

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古民家は生きています。

むかしからの民家をつくった大工技術は、日本が世界に誇る伝統構法です。

「小平の古民家」は、江戸時代にこの地域で新田開発を行った開祖の方のお宅です。

茅葺きから瓦葺きになり長い時間を刻みましたがこの度、生花のギャラリーと茶室と事務所を併合した別宅として生まれ変わります。

もう少しで完成です。

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今月の完成を目指して、現場では最後の追い込みに入っています。

先日は、梁の上の間接照明の明るさをチエックするために仮に通電を行い点検しました。

天井の明るさや、照度にムラがないかを確認し明るすぎるところにはフィルターを掛けて優しい明かりが均等になるよう調整しております。

照明計画は、ヤマギワ照明の後輩に依頼しました。細かなところまで神経の行き届いた計画です。

耐震補強はもちろん、温熱計画も実施して完成が待ち遠しい古民家です。

2023年02月03日 Fri

コラム「成熟した社会を目指して」

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わたくしの生まれ育った故郷が、とても美しい城下町で住み良かったために、若い頃は環境デザインを勉強して「都市計画」に進みました。

「まちづくり」の目的である住みやすい町をめざしていたのですが、その頃は都市開発が主流で「開発」が計画の全てと知って驚き、古い町並みの「保存運動」に身を投じました。そこから建築に進み、そこで学んだことを実践しています。

今回は、古い町に住む住民の方から学んだ「成熟した社会をめざす」ことについて書きました。

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「町並み保存運動」に没頭していた20代から今日まで、全国の商店主の旦那さんや地元の学校の先生やお住まいの主婦の方まで、多くの市民の方たちに教えていただいた、たくさんの言葉があります。

みなさん、故郷の町を愛している方たちで、自分たちの住んでいる歴史的な町並みを、都市開発で壊してはいけないと立ち上がった人たちばかりです。

共通するのは、歴史的な美しい古民家を守ること、御成小学校を守ること、小樽運河を守ること、角館の山を守ること、想いは様々でしたが、自分たちの地元を誇りに思っていて、子供や孫に、生まれ育ったルーツを残すことに熱心でした。

保存運動のメンバーの中には、出版社の編集者、大学の研究者や都市計画コンサルタントもいましたが、そんな専門家たちの議論の中でも町の住民である当事者の言葉には、圧倒的な力がありました。

開発を止めて、保存運動を広げるためにどんどん学習して専門家以上に能弁になってゆく市民の一人にある時、新聞記者が聞きました「みなさんが古い町並みを残す目的は何ですか?」と。

絞り染めの問屋が並ぶ町並みの残る愛知県有松の主婦が答えます。

「成熟した社会を目指しているのです。」

意味は、健全な社会には古民家のような、お年寄りもいれば子供もいて、成熟した文化を醸し出しているということでしょう。

50年近い町並み保存運動の中で最も記憶に残った一言です。どんな学者や研究者よりも重い言葉です。

「知恵は、住民にあり!」社会的な実体験から生まれた言葉です。これで自分の道も決まったなと思った瞬間でした。

いま、町並み保存運動から「まちづくり」を学び、古い民家から「木組」を学び、「懐かしいみらい」に向けて実践している自分がいます。

伊勢河崎の町並み(スケッチ・松井郁夫)

2023年01月30日 Mon

「温熱計測器による測定値の可視化」

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松井事務所では、日頃から「木組の家」や「古民家再生」の耐震性、温熱性の向上に力を入れています。今回は「室内の温熱環境の向上」について測定器を使って見える化していることについて書きました。

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松井事務所では、新築の「木組の家」を「いつか古民家になる」ことを目標につくり続けています。それには耐震性が必須ですが、室内の温熱性能についても気配りしています。

二年前に竣工した「小金井の家」では先日、測定器を屋外と屋内に置かせていただき、リアルタイムで測定値を見える化しました。

随時スマートフォンから、建主さんにも見えるように設定しています。

「木組の家」といえども、断熱性能と気密性能を向上させることで、外気温1℃の時に「無暖房」でも屋内温度は一階17℃、二階18℃になります。

これからのエネルギー消費量の削減や地球温暖化の抑止につながる試みです。

松井事務所では「断熱気密」は「設備仕様」の一貫としてすべての建物に実践しています。

  

 

2023年01月28日 Sat

お住いの様子を撮影させていただきました

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「小金井の木組の家」は2年前に竣工した、延坪で20坪の小さな木組の家です。

松井事務所のことなら何でも知っているという大ファンの奥様ご夫婦が住んでいます。

昨日は、お住まいの様子を動画で撮影させていただき、取材もさせていただきました。

シンプルに整理された木組みの家に、センスよく綺麗にお住まいで、とても良い映像が取れました。

その様子は、近いうちにHPにアップさせていただきます。

あらためて、設計した木組の家の良さを実感できた一日でした。ちょっと、自画自賛…(笑)

最初からお持ちだった照明器具(アルテック)と丸テーブル(オーローズ)が木組の家によく似合います。

奥様は、とてもセンスのいい版画家です。二階吹き抜けに面した作業場の様子を撮影させていただきました。

寝室はロフト付きの和室です。

二年目の夕景。木の色がまだまだ新鮮です。

2023年01月25日 Wed

コラム「価格上昇と木組の家」

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いつか古民家になる木組の家をつくりたいと願っている松井郁夫です。

今回は最近の工事価格の上昇について、松井事務所が考えている木組の家の取り組みについて書きました。

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今年も早くも一ヶ月が過ぎようとしています。

世間ではコロナも戦争も先の見えない様子で、明るい話題がほしいところです。

建築の現場も工事価格の上昇でみんな苦しんでいます。現在見積もりを控えている木組の家を抱える松井事務所もできるだけ手の届く価格で良質な家を届けたいと頑張っていますが、さらに努力を迫られています。

木組の家の良さを残しながら、国産材の無垢の木と手仕事を生かすために無駄をなくし、豊かさをなくさないよう徹底した見直しを検討しています。

具体的には、架構の材のメンバーと部材数を支障のないギリギリまで整理し、広い面積の屋根や壁を効率よく配置してミニマムにすることです。ミニマムデザインは、モダニズムの究極の形なので、設計者としては充分工夫する価値があります。

まずは、木組のスタンダードであるプロトタイプを改良したいと思います。

これから始まる木組の家の価格の異次元の挑戦にご期待ください。

 

 

2023年01月19日 Thu

第20期記念「木組のデザインゼミナール」受講生募集

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木の家づくりを基礎から学ぶ「木組のデザインゼミナール」が20周年を迎えました。

発足当時から木造住宅の基本である、架構を丈夫につくることを目差してきました。これまでに約240人の修了生を世に送り、日本の家づくりの伝統である「木組」の技術を伝えてきました。

「軸組工法」と呼ばれる木の家の構造を理解することは、家づくりには必須です。

本講座では、長い時間を生きた「古民家」から木の家の構造である「木組」を学びます。

「木組」は金物に頼らない粘り強くて倒壊しにくい架構です。その習得には、架構の模型づくりの演習が効果的で、木構造の理解を深めます。

無垢の木や土壁などの自然素材に包まれた暮らしから「豊かさ」や「美しさ」を実感できる家づくりを習得します。

さらに、CO2排出を抑える温熱向上による「あたたかい」家造りを学びます。「日本の木造住宅づくり」は、ここから始まります。

今期は20期の記念講座ですので、受講生のスキル向上のために「古民家講座」と「木組講座」に「理念・温熱講座」加えて、例年になく豪華な講師陣で充実した講座をお送りします。みなさんのご参加をお待ち申し上げております。

「木組のデザインゼミナール」事務局:松井郁夫

2023年01月17日 Tue

コラム「阪神大震災を忘れない」

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28年前の1995年1月17日5時46分52秒、マグネチュード7.3の地震が兵庫県南部地域で発生し、6434人の命が失われました。内8割である約5000人が建物や家具の下敷きになって亡くなりました。阪神淡路大震災です…。横揺れの20センチに加えて縦に10センチの突き上げるような地震だったのです。
 
当時、わたしは40歳で、それまでデザイン重視の住宅設計を続けていてマスコミにもでていましたが、この日を境に設計の考え方が大きく変わりました。
 
「人の命を守る木造住宅は造れないのか?」デザイン重視から構造重視への転換です。
 
そこで、構造に詳しい学者や研究者さんに「丈夫な木造住宅の作り方」を聞いて周りました。その時にうかがった多くの方は「金物」で締め付けることで強くなると答えてくれました。木造住宅も、この地震を契機に金物が主流になりました。しかし、むかしから大工たちが「日本の家は地震に強いんだ」と言っていたことが気になりました。震災後の神戸では、大きく傾いても倒れていない伝統的な木造住宅を数多く見ていたからです。
 
その後、元東大工学部教授で構法の専門であった故・内田祥哉先生から、むかしから「豆腐を針金で釣ってはいけない」という大工たちの戒めがあることを知りました。つまり、木という母材は金物に比べると柔らかく、強い力がかかると硬い金物が木材を壊してしまうというのです。
 
そこで、日本古来からの力をいなす「減衰設計」の「木組」に着目し、当時仲の良かった友人と大工さんの知恵を集めて仕様書を作ろうと集まりました。大工さんの父親と弟を持つ小林一元さんとデータの収集に長けた研究者のような宮越嘉彦さんです。
 
「木造住宅【私家版】仕様書」は、1955年から執筆が始まりました。雑誌「建築知識」に毎月、問題提起し、職人や設計者の知恵を集める「誌上ワークショップ」を試みたのです。成果は3年後の1998年に単行本にまとめられて、いまでは重版4回をかさねるロングセラーです。
 
その本を教科書に「木組のデザインゼミナール」を20年継続しています。おかげさまで、毎年全国から受講生が集まり「大工の知恵」を設計に活かす「技術」や「技能」を学んで頂いています。すでに240名ほどの修了生が全国にいます。そのメンバーのうちの有志が、木組の家を実践するワークショップ「き」組を運営しています。
 
わたしたちの目標は、生存空間を残し倒壊しにくい「木組の家」をつくり続けることです。
「美しい木組の家」をつくり「住まい手の命を守る」事が設計者の使命であり、犠牲者への供養だと考えています。合掌…。
 
大きく傾いても倒壊しなかった納屋。貫が効いている。
二階が道路に落ちて、一階が壊れた家。

2023年01月15日 Sun

コラム「古民家から暗い寒いを取り除く」

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古民家は生きています。

わたしたちは、「古民家の再生」によって新築を超える「新しい住まい」をつくることができると考えています。

本来、古民家は、太くて丈夫な木材と健康に良い自然素材でできています。

長い年月を生きた古民家は貴重な財産ですが「暗い」「寒い」が理由で壊されています。

それならば、その理由を取り除けば、更に長く生きることができると考えました。

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古民家から「暗い」「寒い」を取り除く

古民家が失われる原因は、「暗い」と「寒い」の2つです。

本来、土壁や木材は温もりのある暖かい材料だと思われています。

しかし、実は土や木は、素材としては熱伝導率が良くて熱を通しやすく、「熱(ねっ)橋(きょう)」となり熱が逃げやすいのが事実です。

また、古い建物では気密の良くない建具のために、開口部から隙間風が入るので「寒く」北側に開けた窓は「うす暗い」のです。

そこで、古民家を「暖かく」「明るく」するには壁や屋根に断熱材を充填し窓を設けて、温熱性能を上げるために、ガラスを二重にして更に、隙間風をなくすことです。

「暗い」部屋は極端に明るくしたり、温めたりする必要はありません。南側の窓を大きくすることで暖かくて明るくなります。つまり「寒い」「暗い」を取り除けばいいのです。

そこで、古民家の「架構」に着目しました。本来日本の民家は軸組工法で造られているので、柱・梁を残せば開口部は大きく採ることができます。つまり、庭木の葉表を見るために北側の窓を開け、日射を取り込むために南窓を大きく採るのです。

また、古民家は、石の上に柱を置いていましたから、地面に近い柱の根元が、湿気で腐ることを恐れ、床下を通気することが一般的で、床下を大きく開けていましたが、そのために床下から冷えてくるので、床面を暖める必要があります。

そこで、松井事務所では、古民家といえども、床下を塞ぎエアコンを沈め、周囲に断熱材を張って、温風を吹き込みます。

床下エアコンで1階の室内温熱環境と床下を同じにするために床面にはガラリを設けます。

ガラリはガラス窓の冷気が下がってくる場所が有効です。冷えた空気は重いので、床下から温風で対流を起こし、室内を最適な温度にしてくれます。

床下を密閉することに伝統的な職人たちは抵抗を感じるかもしれませんが、竪穴式の縄文時代から床を掘り下げて囲炉裏を炊き、一年を通じて地面を温めて、半年後に戻ってくる地熱を利用して寒い冬をしのいできたと言います。そのことを考えると、床下エアコンはとても合理的です。

わたしたちは、古民家の「暗い」「寒い」を取り除き、これからの「みらい」に向けて「再生」を実践しています。

「懐かしくて新しい古民家再生」をHPからご覧ください。

開放的な日本家屋の座敷。庭木の葉表を見るために庭は北庭を良しとした。

竪に掘り下げた土間に、一年を通して囲炉裏を炊いて、地熱が5ヶ月遅れて冬にもどってくるのを待った。

エアコンの温風を床下に吹き、冷気の降りてくるガラス面を温めることで、室内に対流を起こしている。

イラストは「初めての人にもできる!古民家再生絵本」ウエルパイン書店 

アマゾンから買えます https://onl.sc/1rZugLT

2023年01月12日 Thu

コラム「ご家族の笑顔のために」

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いつか古民家になる「美しい木組の家」をつくりたいと願ってる松井郁夫です。

今回のコラムは、当事務所が取り組んでいる家づくりのための「心がけ」について描きました。

一家団らんのお住いをつくることを目標に、「ご家族の笑顔のために」をお届けします。

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みんなの笑顔のために

しあわせな家庭は、ご家族の笑顔から生まれると思います。

わたしたちは、住まい手の方々の笑顔が見たいという想いで、家をつくっています。

家族の一人ひとりが、日々を生き生きと暮らすことができるような、みんなが集える広間と時には一人になれる個室があって、団らんの場が中心で必要なときはプライバシーの守れる家です。

小さなお子さんがいる間は、お子さんの成長に合わせて部屋を模様替えすることができる、仕切りのない部屋から始めることも出来ます。

ライフステージに合わせて子育てを楽しめる家です。自然素材に囲まれた、豊かさを感じる心地の良い家でもあります。

また、雨や風にも負けない丈夫な家で、暑さ寒さを取り除く快適な家にするためには、構造や性能の向上を図る必要があります。

わたしたちは、幸せな家庭の「笑顔のために」木の家づくりを行っています。

 

 

2023年01月11日 Wed

コラム「職人とつくる木組の家」

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いつか古民家になる「美しい木組の家」をつくりたいと願ってる松井郁夫です。

今回のコラムは、手仕事を実践してくれる職人はどれだけいるのか考えました。

本日は「職人とつくる木組の家」をお届けします。

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木組の家づくりは、伝統的な「継手・仕口」をつくることができる職人と共につくります。

それには、金物を使わずに架構を組み立てることが出来る「技能」が必要だからです。

「技術」は本や写真で学べますが「技能」は実務から身に着けます。経験が全てですから実績を積んだ職人が必要です。現在は職人不足で、技能を持った人を見つけることが大変と言われています。

わたしが事務所を開いたときには、大工には困りませんでした。基本的には近所の職人と共につくることをテーゼにしていましたので、まだまだたくさんいた、地域の職人たちと楽しく仕事ができていました。ありがたいことに、今でもその時の職人たちと一緒に仕事が出来ています。もちろん年老いて引退した人も多くいますが、新しく知り合う若い職人もまだまだ手仕事が好きな人もいます。

問題は手間賃です。時間の掛かる手仕事に対価を払う工務店が少なくなりました。プレカットが大半です。

そこで『ワークショップ「き」組』では、大工に限らず下職にも、十分腕をふるってもらい、不足のない手間賃を払うことを前提にしています。

最近ではSNSの力で、応募を掛けると手仕事の職人が来てくれます。20期続いている「木組のデザインゼミナール」を受講する職人さんも毎年いて、木組の家づくりを手伝ってくれています。また、わたくしが講師を務めた「大工育成塾」という塾が国土交通省の「国家プロジェクト」が15年続いたのですが、その教え子も一緒に仕事をしています。

伝統的な木組の仕事は、職人にとっても魅力なのでしょう。プレカットで仕事をしている職人でも、機会があれば手仕事でつくりたいと思っています。職人は、「図面を書いてくれれば手仕事もやるよ」と言ってくれます。「手仕事」と「木組」にこだわり続けることで職人もいますし、仕事も継続できます。金物を使わないで家が欲しいというオーナーの方も必ず現れます。

2023年01月10日 Tue

「小平の古民家再生」進捗報告⑤

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古民家は生きています。むかしの大工技術は、世界に誇る日本の伝統構法です。

いまなお全国に残る古民家を昔ながらの石場建てで再生し、次世代につなぐことを使命に、新築を超える快適な住まいをつくりたいと考えている松井郁夫です。

現在進めている「小平の古民家再生」現場の進捗報告です。

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昨年より取り組んでいる「小平の古民家再生」が室内の壁を塗り終えました。

茶室の炉壇もきれいに上がっています。左官職人は伊藤博文さんです。腕の良さは名人・榎本新吉ゆずりです。

これからは電気設備と建具の工事にかかります。2月の末に竣工の予定です。

内覧会のお許しがでましたので、追ってご案内します。乞うご期待!

2023年01月09日 Mon

コラム「関東大震災から100年」

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いつか古民家になる丈夫で長生きの「美しい木組の家」をつくりたいと願ってる松井郁夫です。

今年は、大正12年に発生し甚大な被害を出した「関東大震災」から100年になります。

そこで今回のコラムは、当事務所が取り組んでいる「地震に強い家づくり」をお届けします。

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今からちょうど100年前の大正12年には「関東大震災」がありました。

9月1日正午ごろ、マグネチュード7を超える巨大地震が関東地方を襲いました。

死者・行方不明者は10万5千人で、明治以降の地震被害としては最大級でした。

お昼時ということもあって火を使っている家が多くて火災によって亡くなった人がほとんどだったといいます。

また、28年前の1995年1月17日未明に発生した「阪神淡路大震災」では、6434人の人がなくなりました。8割が、建物や家具の下敷きになって亡くなったのです。当時40歳だった私はこの地震をきっかけに「丈夫な家づくり」を目差すことを使命にしています。

さらに、12年前の2011年3月11日の「東日本大震災」では津波による被害が大きく、多くの方が溺れてなくなりました。

災害大国・日本で暮らすわたしたち建築に携わる者の使命は、建物を丈夫につくり人の命を守ることです。

当事務所では、「阪神大震災」以来、伝統構法による地震に強く倒れにくい「木組の家」を実践しています。

伝統構法の木組の家の耐震性能の高さは、2008年から2011年に行われた実大実験で実証されています。

わたしたちは日頃から、地震に強い家づくりを目差しています。

 関東大震災 大正12年 9月1日

 浅草・傾いた凌雲閣「十二層」

 1995年1月17日 阪神大震災・長田町

2011年3月11日

東日本大震災・津波

 

 

 2008年 実大実験

2023年01月06日 Fri

コラム「自然素材の家づくり」

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いつか古民家になる「美しい木組の家」をつくりたいと願ってる松井郁夫です。

今回のコラムは、当事務所が取り組んでいる「自然素材の家づくり」をお届けします。

快適な体感温度につて書きました。

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自然素材を使うわけ

わたしたちのつくる家は、無垢の木と漆喰の家です。柱や梁には、無垢の木を使います。木は杉や桧です。壁には漆喰や土壁を使います。漆喰は無垢の木との相性がよく、白い土壁との美しいコントラストをつくり出します。

自然素材の体感温度の良い家です。いわゆる石油から作り出した化学物質ではないので、シックハウスはありません。

快適な体感温度は、室内の温度では決まりません。室温と周壁の温度の平均値が体感温度となります。例えば、室温が15度で壁の温度が25度ならば、体感温度は20度となり快適に感じます。エアコンなどの強制的な室内空気温度の設定は、むしろ不快な室温になってしまいます。

無垢の木や土壁などの自然素材は、内部に熱を蓄熱して輻射熱として放熱します。この輻射熱が多孔性の壁を持つ室内の人にとって心地よいのです。

これはビニールクロスを貼った室内では体験できません。壁の素材が呼吸しないからです。

木も土も多孔性の素材です。表面は滑らかですが、目に見えない小さな孔がたくさん空いていて、室内の湿度の高いときには、孔の中に湿気を呼び込み、乾燥していると孔から湿気を放出します。「吸放出性能」と言います。

どちらも湿気や温度を調節する「調温湿機能」も持っているのです。

つまり、人の皮膚と同じような働きをするのです。床に無垢の木を使い、壁に漆喰を塗り、天井に無垢の木を貼れば、中で暮らす人は快適な気持ちになるはずです。

人は昔から地球上の生物や鉱物などの自然の素材を利用してきました。

人も自然の一部と考えれば、土や木は最も親和性のある素材です。その素材を使って家をつくるのであれば、その家の居心地はきっと良くなります。

無垢の木や土壁の家は、地球資源として持続可能な素材であり、素材の美しさや、使い勝手は快適な空間を約束してくれます。まさに真の豊かな空間をつくるのです。

 

 

 

2023年01月04日 Wed

コラム「わたしたちのつくる家」

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あけましておめでとうございます。

いつか古民家になる「美しい木組の家」をつくりたいと願ってる松井郁夫です。

新年最初のコラムは、当事務所が取り組んでいる「わたしたちのつくる家」をお届けします。

今年も、よろしくお願いします。

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わたしたちのつくる家

わたしたちは、丈夫で美しい「木組」の家をつくります。

木の家は、古来より伝わる骨組みをつくる「木組」が大切だと考えています。

全ての柱や梁の見える「真壁」しんかべ というつくり方です。

地震や台風に襲われる日本では、家は丈夫でなければなりません。

また、美しい家は、無垢の木や土などの「自然素材」をふんだんに使いプロポーションの良い家だと思います。

心豊かな生活とは、「本物」の素材に囲まれて暮らすことで、実感することができます。「本物=本来の物」と考えれば、「本来の物」はむかしからの素材でつくられてきた「古民家」を見るとよくわかります。

「古民家」の豊かさは、長い時間を生きた智恵と工夫に溢れる丈夫な架構を持ち、無垢の木の味わいが時間が経つほどに増し、古くなっても美しくなる姿を実感できることだと思います。それを「経年美化」と呼びます。

住まいは、「美しい」空間と「快適性」を備え、住まい手の「立ち振る舞いを美しく」する、佇まいであることが大切だと考えます。

控えめで暮らしの邪魔をせず、細部にまでこだわるデザインを「美」ととらえ、実用的な「用」は環境を壊すことなく、長い時間の生活の変化を楽しめることです。

「木組の家」は風景に溶け込み、心に響く原風景をつくリます。耐震性と温熱性を向上させることで、安全性と利便性を備えた心地よい「住まい」を実現します。

木は、植えて育てれば「無限の資源」です。森を育て、天然素材を提供する「山」と、伝統構法を実践する「職人」豊かな暮らしを提案する「設計者」の三者が協働して、幸せに包まれた家庭をつくりたいと思います。

わたしたちは、環境にも人にも優しく長く愛されて「いつか古民家になる」「美しい木組の家」をつくります。

2023年