プロジェクトレポート
2023年02月03日 Fri
わたくしの生まれ育った故郷が、とても美しい城下町で住み良かったために、若い頃は環境デザインを勉強して「都市計画」に進みました。
「まちづくり」の目的である住みやすい町をめざしていたのですが、その頃は都市開発が主流で「開発」が計画の全てと知って驚き、古い町並みの「保存運動」に身を投じました。そこから建築に進み、そこで学んだことを実践しています。
今回は、古い町に住む住民の方から学んだ「成熟した社会をめざす」ことについて書きました。
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「町並み保存運動」に没頭していた20代から今日まで、全国の商店主の旦那さんや地元の学校の先生やお住まいの主婦の方まで、多くの市民の方たちに教えていただいた、たくさんの言葉があります。
みなさん、故郷の町を愛している方たちで、自分たちの住んでいる歴史的な町並みを、都市開発で壊してはいけないと立ち上がった人たちばかりです。
共通するのは、歴史的な美しい古民家を守ること、御成小学校を守ること、小樽運河を守ること、角館の山を守ること、想いは様々でしたが、自分たちの地元を誇りに思っていて、子供や孫に、生まれ育ったルーツを残すことに熱心でした。
保存運動のメンバーの中には、出版社の編集者、大学の研究者や都市計画コンサルタントもいましたが、そんな専門家たちの議論の中でも町の住民である当事者の言葉には、圧倒的な力がありました。
開発を止めて、保存運動を広げるためにどんどん学習して専門家以上に能弁になってゆく市民の一人にある時、新聞記者が聞きました「みなさんが古い町並みを残す目的は何ですか?」と。
絞り染めの問屋が並ぶ町並みの残る愛知県有松の主婦が答えます。
「成熟した社会を目指しているのです。」
意味は、健全な社会には古民家のような、お年寄りもいれば子供もいて、成熟した文化を醸し出しているということでしょう。
50年近い町並み保存運動の中で最も記憶に残った一言です。どんな学者や研究者よりも重い言葉です。
「知恵は、住民にあり!」社会的な実体験から生まれた言葉です。これで自分の道も決まったなと思った瞬間でした。
いま、町並み保存運動から「まちづくり」を学び、古い民家から「木組」を学び、「懐かしいみらい」に向けて実践している自分がいます。
伊勢河崎の町並み(スケッチ・松井郁夫)