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2023年01月17日 Tue

コラム「阪神大震災を忘れない」

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28年前の1995年1月17日5時46分52秒、マグネチュード7.3の地震が兵庫県南部地域で発生し、6434人の命が失われました。内8割である約5000人が建物や家具の下敷きになって亡くなりました。阪神淡路大震災です…。横揺れの20センチに加えて縦に10センチの突き上げるような地震だったのです。
 
当時、わたしは40歳で、それまでデザイン重視の住宅設計を続けていてマスコミにもでていましたが、この日を境に設計の考え方が大きく変わりました。
 
「人の命を守る木造住宅は造れないのか?」デザイン重視から構造重視への転換です。
 
そこで、構造に詳しい学者や研究者さんに「丈夫な木造住宅の作り方」を聞いて周りました。その時にうかがった多くの方は「金物」で締め付けることで強くなると答えてくれました。木造住宅も、この地震を契機に金物が主流になりました。しかし、むかしから大工たちが「日本の家は地震に強いんだ」と言っていたことが気になりました。震災後の神戸では、大きく傾いても倒れていない伝統的な木造住宅を数多く見ていたからです。
 
その後、元東大工学部教授で構法の専門であった故・内田祥哉先生から、むかしから「豆腐を針金で釣ってはいけない」という大工たちの戒めがあることを知りました。つまり、木という母材は金物に比べると柔らかく、強い力がかかると硬い金物が木材を壊してしまうというのです。
 
そこで、日本古来からの力をいなす「減衰設計」の「木組」に着目し、当時仲の良かった友人と大工さんの知恵を集めて仕様書を作ろうと集まりました。大工さんの父親と弟を持つ小林一元さんとデータの収集に長けた研究者のような宮越嘉彦さんです。
 
「木造住宅【私家版】仕様書」は、1955年から執筆が始まりました。雑誌「建築知識」に毎月、問題提起し、職人や設計者の知恵を集める「誌上ワークショップ」を試みたのです。成果は3年後の1998年に単行本にまとめられて、いまでは重版4回をかさねるロングセラーです。
 
その本を教科書に「木組のデザインゼミナール」を20年継続しています。おかげさまで、毎年全国から受講生が集まり「大工の知恵」を設計に活かす「技術」や「技能」を学んで頂いています。すでに240名ほどの修了生が全国にいます。そのメンバーのうちの有志が、木組の家を実践するワークショップ「き」組を運営しています。
 
わたしたちの目標は、生存空間を残し倒壊しにくい「木組の家」をつくり続けることです。
「美しい木組の家」をつくり「住まい手の命を守る」事が設計者の使命であり、犠牲者への供養だと考えています。合掌…。
 
大きく傾いても倒壊しなかった納屋。貫が効いている。
二階が道路に落ちて、一階が壊れた家。