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2023年06月15日 Thu

コラム「古民家再生」をブームにしてはいけない

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いつか古民家になる丈夫で暖かい家をつくりたいと考えている松井郁夫です。

今回は最近の「古民家」ブームに対して少し思うところを書きました。

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今や「古民家再生」は空前のブームと言える状況です。

松井事務所にも多くの問い合わせがあります。

「古民家に住みたい!」「古民家を買ったけどどう直せばいいのか?」「古民家を買いたいので見てほしい。」等など。

みなさん憧れの古民家に対して切実なお悩みをお持ちです。

ではどうすれば「古民家」に住めるのか?

そのためには何が必要か?

お答えするのはそれぞれの事情によりますが、そもそも「古民家」とはどういうものを言うのでしょう。

寄せられた相談の建物の建設年代から言うと、とても「古民家」とは呼べない建物もあります。

それは第二次大戦後に建てられた家で伝統的な工法ではない建物です。いわゆる「在来工法」の家です。

「在来」は戦後に入ってきたアメリカなどの「外来」(外国)の建物に対して昭和25年の建築基準法制定の折に使われた工法の分類からその名が来ています。

もともと日本では古来伝統的な建物は木と木を組み上げることで建てられていました。それを「伝統構法」といいます。

しかし第二次大戦の焼け跡時代からの復興のために手の込んだ木組よりも簡便な家を多く提供する必要に迫られて底上げのためにつくられた「在来工法」は「復興住宅」です。むかしから日本にあったので「在来」と名付けられましたが伝統構法を簡略化した工法で丈夫な建物ではありません。

当時内務省では「庶民の建物は金物で縛ればよい、本格的な伝統の木組は文化財で実践すればよい」という機運だったそうです。つまり「質より量」が求められた時代の産物です。

なので問い合わせがあれば建物を見に行く前に「戦前か戦後か」をお聞きしています。それは大きな指針になります。

厳密には明治24年の濃尾地震で西欧の構法が入ってくるまでと戦前までの昔ながらの仕事を伝統的な「古民家」と考えています。松井事務所では以上のような「古民家の定義」に沿って改修・再生を実践しております。

大きな違いは構造に対する考え方です。「古民家」には強度で構造を成り立たせるようなことはしません。自然の力学に馴染まないからです。むしろ力をいなす「減衰設計」が有効です。

減衰の考え方は「めり込み」と「摩擦」で地震や風のエネルギーを吸収することです。「貫」や「継手・仕口」という「木組」の加工が必要です。さらに、時代を超えて生きていくには「暗い」「寒い」を取り除く耐震計画と温熱計画が必要です。

「レトロ」な雰囲気と懐かしさだけの古民家再生は、かえって建物の寿命を縮めてしまうと考えられます。

正当な「古民家再生」は木組の原点に還って伝統的な架構から取り掛かるべきでしょう!