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2023年06月25日 Sun

コラム「伝統は革新によって進化する」木の建築賞にむけて②

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昨日の「コラム」の続きです。本日「木の建築賞」の表彰式で受賞作品のコメントを求められているので、少し考えをまとめてみました。

今回入賞した「不惑の一棟」は「星野神社覆殿+本殿」で大賞を取った望月茂高さんの作品です。

「不惑」は孔子の論語の一節の「四十にして惑わず」から来ていることはみなさんご存知のとおりです。更に論語では「50にして天命を知り」「60にして他人の声に耳を傾け」「70にして思い通りに行動しても道を踏み外すことはない」と続きます。

しかし私の私見を許してもらえるならば、この作品は大いに惑っているように見えます。

まず、母屋である古民家の農家が隣りにありこの地域の歴史を伝えています。差鴨居で結ばれた田の字型の農家は長い時間をこの場所で大過なく過ごしてきた落ち着きがあります。

本来古民家には純粋な日本の世界があり、この場所の自然と伝統から丈夫で美しい独自の存在を鮮やかに示しています。無名の職人たちの健康で素朴な実用の美を見ることができます。人々の生活の無作為と無心の純粋な用と美の世界が見えます。

「不惑の一棟」にもその伝統と美への追求は伺えますが…。

話は変わりますが、私の木造住宅の師である「小川行夫」は昨年亡くなりましたが、大工でありながら建築家協会に推薦され「前川國男」先生と交流した人で63年前の28歳のとき妻の家を建てました。今も94歳の義母が住んでいますがその家の佇まいは随所に美しい納まりのある家ですが、少しも気にかかることのない快適な空間を維持しています。

師匠は、常日頃から「建物はどこがいいとかここが面白いとか言う気持ちが起きない方が良い。思い出せないがなんだか気持ちが良かったなぁ…と思えるものがいい建物なのだ」と言っておりました。

「50にして天命を知り」「60にして他人の声に耳を傾け」「70にして思い通りに行動しても道を踏み外すことはない」というこの言葉とともに我が師匠の言葉を送ってお祝いの言葉とさせていただきます。おめでとうございました。