プロジェクトレポート
2024年09月27日 Fri
小川行夫の事務所には1年半しかいなかったのですがその間に色々なところに連れて行ってもらいました。
工事途中の現場はもちろんですが、下北沢のジャズバー、百軒店の朝までやっている居酒屋、前川先生とお会いできた建築家協会のホールにあるカウンター・バー等など。一緒に飲ませてもらったことばかり思い出します。(笑)
一年間の蜜月のうち一番印象深かったのが京都の老舗旅館に連れて行ってもらったことです。いつものように朝の9時に事務所に行くと「今日は京都に行こう!」といいます。
なぜ急に京都に行くことになったかは説明もありませんでしたから、まさかその日のうちに出かけるとは思っていなかったので驚きましたが、京都に行けることは嬉しかったです。
その頃はまだ京都駅周辺にも町家が残っていて駅からほど近い旅館に泊まることになりました。その旅館は「よねだ旅館」といいます。義理の父の知り合いでNHKの関係者が京都の定宿にしていたようです。どうやら近くホテルが出来るので立ち退きになるということで女将が連絡してきたようです。
「おいでやす!」と出迎えてくれた女将は初老の綺麗な方で元芸妓さんです。パトロンから町家をいただいて旅館にしたということでした。宿泊は二階の2部屋のみで朝食だけの片泊まりでした。
古い建物で数寄屋造りなのにも感動しました。二階の部屋に通されてすぐに、この美しい部屋を実測したいと女将申し出ると「あら熱心やわぁ!昔の小川さんみたいやわぁ!」と言われました。小川さんも若いときにこの建物の実測をしたみたいです。
わたしが実測している間小川さんと女将は楽しそうに昔話に花を咲かせていました。女将が義父のことを「可愛いお人でしたわぁ!」というのでドキリとしましたが、その流れで女将の知り合いの先斗町の小料理屋に連れて行ってもらいました。そこで初めてスッポン鍋をいただき生き血で割ったお酒を飲みました。女将いわく「若いから精力おつけやす!」
女将が出かける時の着物は泥染めの大島だったと思います。とても綺麗でした。
帰ってきても寝ている暇はありません。遅くまで部屋を実測させてもらいました。柱や鴨居の細さは流石に京都だと思いました。プロポーションが良く障子の組子が綺麗です。
そういえば小川さんの建物も骨太の架構ですが建具は繊細です。もしかすると原点は「よねだ旅館」かも知れません。
京間なので畳が大きく部屋は広く感じました。建具もさることながら土壁も繊細です。外部に面して壁の竹下地の露出した小舞窓があったので壁の厚みを測ることができました。
驚いたことに厚みはたったの50ミリでした。柱は90ミリですから薄くなるのも納得です。冬は寒いだろうな。
小川さんには感謝しています。たった一年の間に実に多くのことを体験させてもらい身につけることができたのですから。二言目には「建主の娘婿だからしょうがない」が口癖でしたが厳しくも優しくとても可愛がってもらった気がします。感謝!感謝!です。(完)